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家を建てるとき、構造設計士に直接相談すべき?メリット・デメリットと依頼方法

家づくりを進めていると、「構造設計士」という専門家の存在を耳にすることがあります。ハウスメーカーや工務店に任せておけば問題ないと思っていたけれど、「構造設計士に直接相談したほうがいいのかな?」と迷っている方も多いのではないでしょうか。

実は、家づくりにおいて構造設計士が果たす役割は非常に大きいのですが、その存在は意外と知られていません。ハウスメーカーの営業担当や建築士とは違い、建物の「骨組み」を専門的に設計する技術者が構造設計士です。

この記事では、構造設計士に直接相談するメリット・デメリット、どんな人が相談すべきなのか、実際の依頼方法や費用相場まで、家づくりの現場で15年以上携わってきた経験をもとに、わかりやすく解説していきます。大空間リビングや吹き抜け、ビルトインガレージなど「ちょっと特殊な間取り」を検討している方は、特に参考になるはずです。

そもそも構造設計士とは?意匠設計士との違い

まず基本的なところから整理しましょう。家を設計する「建築士」には、大きく分けて2つの役割があります。

意匠設計士(いしょうせっけいし)は、間取りやデザイン、外観、内装など「目に見える部分」を設計する建築士です。施主と打ち合わせをして、要望を図面に落とし込んでいくのが主な仕事。多くの方が「建築士」と聞いてイメージするのは、この意匠設計士でしょう。

一方、構造設計士は、建物の「骨組み」を設計する専門家です。柱や梁、基礎、壁などの構造部材をどう配置し、どのくらいの強度にすれば安全なのかを計算して決めていきます。地震や台風に耐えられるか、床が抜けないか、といった「建物の安全性」を数字で証明するのが構造設計士の役割です。

ハウスメーカーや工務店で家を建てる場合、意匠設計士と構造設計士の両方が関わっていますが、施主が直接やりとりするのは意匠設計士や営業担当だけというケースがほとんど。構造設計士は「裏方」として図面をチェックし、構造計算を行っているため、その存在を知らないまま家が完成することも珍しくありません。

でも、本当にそれでいいのでしょうか?特に、以下のような家づくりを考えている方は、構造設計士の存在を意識したほうがいいかもしれません。

  • 柱のない大空間リビングがほしい
  • 吹き抜けや大きな窓をつくりたい
  • ビルトインガレージを計画している
  • 狭小地や変形地に建てる
  • 耐震性能を最大限高めたい
  • コストを抑えつつ構造的に安全な家にしたい

こうした要望がある場合、構造設計士に直接相談することで、より理想に近い、そして安全な家づくりができる可能性が高まります。

構造設計士に直接相談するメリット

それでは、構造設計士に直接相談することで得られる具体的なメリットを見ていきましょう。

デザインと構造を両立できる

「大きな窓がほしい」「柱のないリビングにしたい」といった要望を意匠設計士に伝えたとき、「構造的に難しい」と言われて諦めた経験はありませんか?

実は、構造設計士が早い段階から関わることで、デザインと構造を高いレベルで両立できることが多いんです。意匠設計士だけで進めた場合、「この間取りだと構造計算が通らない」と後から判明し、せっかく練った間取りを大幅に変更せざるを得ないケースもあります。

構造設計士に直接相談すれば、プランニングの初期段階から「この壁は抜ける」「ここに梁を入れればOK」といった具体的なアドバイスがもらえます。構造上の制約を理解した上で間取りを考えられるので、後戻りが少なく、理想の空間を実現しやすくなるのです。

安全性の根拠が明確になる

ハウスメーカーのカタログには「耐震等級3取得」「制震ダンパー搭載」といった文言が並びますが、その裏側でどんな計算がされているのか、施主が理解できることは少ないですよね。

構造設計士に直接相談すれば、「なぜこの家は地震に強いのか」「どういう計算で安全が証明されているのか」を、専門家の口から直接聞くことができます。構造計算書を見せてもらいながら説明を受ければ、数字の意味が分からなくても「この人がちゃんと計算してくれているんだな」という安心感が得られます。

特に、熊本地震や能登半島地震など大きな地震を経験した地域の方、または地震に対する不安が強い方にとって、構造の専門家と直接話せることは大きな安心材料になるはずです。

コストの最適化ができる

意外かもしれませんが、構造設計士に相談することで建築費用を抑えられるケースもあります。

ハウスメーカーの標準仕様は「どんな間取りにも対応できるように」安全側に振った設計になっていることが多く、実際にはもっと細い柱や少ない鉄筋でも十分な強度が出せる場合があります。構造設計士が個別に計算することで、過剰なスペックを削り、必要な部分にだけしっかりお金をかける「適正な設計」が可能になるのです。

例えば、ある施主さんは構造設計士に相談したことで、基礎の配筋を見直し、約30万円のコストダウンに成功しました。もちろん安全性は確保した上での最適化です。

将来のリフォームやリノベーションがしやすくなる

構造設計士に直接相談して建てた家は、構造に関する詳細な図面や計算書が手元に残ります。これが将来、大きな資産になるんです。

10年後、20年後に間取りを変えたい、壁を抜いてリノベーションしたいと思ったとき、構造図面がないと「この壁は抜いていいのか」が判断できません。構造設計士が関わっていれば、どの壁が構造上重要で、どこなら変更可能かが明確に分かるため、リフォームの自由度が格段に上がります。

特殊な条件に対応できる

狭小地、傾斜地、変形地、準防火地域など、建築条件が厳しい土地では、構造設計の腕が試されます。こうした土地では、定型的な設計では対応できないことも多く、構造設計士の経験と知識が不可欠です。

また、「ピアノ室をつくりたい」「屋上に庭をつくりたい」「ホームシアター用に防音室がほしい」といった特殊な要望も、構造設計士が関わることで実現可能性が高まります。床の耐荷重や遮音性能を構造的に担保する必要があるためです。

構造設計士に直接相談するデメリット

メリットばかりお伝えしましたが、もちろんデメリットや注意点もあります。公平に見ていきましょう。

費用が別途かかる

最も大きなデメリットは、構造設計料が別途発生することです。

ハウスメーカーや工務店の見積もりには、構造設計費用が含まれているのが一般的。構造設計士に個別に依頼する場合、その費用を追加で支払う必要があります。相場としては、木造住宅で15万円〜40万円程度、鉄骨造やRC造だと30万円〜80万円程度が目安です。

ただし、前述のとおり構造の最適化によってコストダウンできる場合もあるため、設計料を払っても結果的にトータルコストが下がるケースもあります。

依頼先を探す手間がかかる

ハウスメーカーなら「全部お任せ」で進められますが、構造設計士に直接相談する場合、自分で探して連絡を取る必要があります。

構造設計士の多くは一般の方に向けた広告を出していないため、どうやって見つければいいのか分からないという声もよく聞きます。また、相性の良い構造設計士を見つけるまでに時間がかかることもあります。

意匠設計士との調整が必要

構造設計士と意匠設計士が別々に存在する場合、両者の調整がスムーズにいかないと、設計が進まないことがあります。

「意匠設計士が描いた間取りを構造設計士が否定する」「構造設計士の提案を意匠設計士が受け入れない」といったケースも実際にあります。こうした場合、施主が間に入って調整する負担が生じることも。

理想的なのは、意匠設計士と構造設計士が以前から連携している組み合わせや、最初から両者がチームを組んで動くケースです。

スケジュールが長くなる可能性

構造設計士が個別に計算を行う場合、ハウスメーカーの標準設計よりも時間がかかることがあります。特に、複雑な形状や特殊な構造を採用する場合、計算に数週間を要することも。

急いで家を建てたい方にとっては、スケジュールの長期化がネックになるかもしれません。

こんな人は構造設計士に直接相談すべき

メリット・デメリットを踏まえた上で、どんな人が構造設計士に直接相談すべきなのでしょうか。

建築家と家づくりをする人

建築家(意匠設計士)に設計を依頼する場合、構造設計士は別途選定するのが一般的です。建築家から紹介されることも多いですが、自分で選びたい場合は構造設計事務所を探すことになります。

建築家との家づくりを選ぶ方は、デザインにこだわりがある方が多いため、構造設計士との連携が特に重要になります。

特殊な間取りや空間を実現したい人

前述のとおり、大空間、吹き抜け、ビルトインガレージ、スキップフロアなど、通常とは異なる間取りを希望する場合、構造設計士の専門知識が不可欠です。

ハウスメーカーでも対応可能なケースはありますが、より自由度の高い設計を求めるなら、構造設計士に直接相談する価値があります。

耐震性能に強いこだわりがある人

「耐震等級3は当然として、さらに余裕を持たせたい」「制震ダンパーの効果を最大化したい」など、耐震性能に対して高い要求がある方も、構造設計士との直接のやりとりがおすすめです。

構造計算書を見ながら「ここをこう補強すると、さらに安全性が上がります」といった提案を受けられるのは、直接相談ならではのメリットです。

土地条件が厳しい人

狭小地、傾斜地、軟弱地盤、変形地など、建築条件が厳しい土地では、構造設計士の力が必要になることが多いです。

地盤改良の方法、基礎の形状、擁壁の設計など、土地に合わせた構造設計が求められるため、経験豊富な構造設計士に相談することで、安全かつコストを抑えた家づくりが可能になります。

コストの透明性を求める人

「この柱は本当に必要なのか」「この基礎の仕様は適正なのか」といった疑問を持つ方、構造にかかるコストの根拠をしっかり理解したい方も、構造設計士に直接相談することで納得のいく家づくりができます。

構造設計士の探し方と選び方

では、実際にどうやって構造設計士を探せばいいのでしょうか。いくつかの方法を紹介します。

建築家からの紹介

建築家に設計を依頼する場合、信頼できる構造設計士を紹介してもらうのが最もスムーズです。普段から連携している構造設計士なら、設計の進め方やコミュニケーションもスムーズで、トラブルが起きにくいというメリットがあります。

ただし、紹介された構造設計士が必ずしも自分に合うとは限らないので、一度面談して相性を確認することをおすすめします。

構造設計事務所のウェブサイト

最近では、構造設計事務所もウェブサイトで情報発信をしているところが増えています。「構造設計事務所 ○○(地域名)」で検索してみましょう。

ウェブサイトには過去の実績や得意分野が載っていることが多いので、自分の希望に合いそうな事務所を探してみてください。住宅専門の構造設計事務所もあれば、ビルやマンションが得意な事務所もあります。住宅の構造設計に慣れている事務所を選ぶことが大切です。

日本建築構造技術者協会(JSCA)のサイト

JSCA(日本建築構造技術者協会)のウェブサイトには、会員の構造設計事務所を検索できる機能があります。地域や専門分野で絞り込めるので、候補を見つけやすいでしょう。

JSCAの会員であることは、一定の技術レベルと倫理観を持っていることの証でもあります。

>>日本建築構造技術者協会(JSCA)

SNSやブログ

TwitterやInstagram、ブログなどで情報発信をしている構造設計士も増えています。投稿内容から人柄や考え方が分かるので、相性を見極める材料になります。

「#構造設計」「#構造設計士」といったハッシュタグで検索してみるのもいいでしょう。

選ぶ際のチェックポイント

構造設計士を選ぶ際は、以下のポイントを確認しましょう。

住宅の実績があるか
商業施設やビルが得意な構造設計士と、住宅が得意な構造設計士では専門性が異なります。住宅の構造設計実績が豊富な事務所を選びましょう。

コミュニケーションが取りやすいか
専門用語ばかり使わず、分かりやすく説明してくれるか、質問に丁寧に答えてくれるかは重要です。初回の面談や電話で相性を確認しましょう。

意匠設計士と連携できるか
すでに意匠設計士が決まっている場合、その建築家と円滑に連携できそうかも確認ポイントです。

費用が明確か
構造設計料の内訳や追加費用の有無など、費用面をしっかり説明してくれる事務所を選びましょう。

資格や所属団体
一級建築士の資格を持っているか、JSCAなどの専門団体に所属しているかも参考になります。

構造設計士への依頼の流れ

実際に構造設計士に依頼する場合、どのような流れで進むのでしょうか。一般的なプロセスを紹介します。

ステップ1:初回相談(無料〜1万円程度)

まずは電話やメールで問い合わせ、初回相談の日程を決めます。多くの構造設計事務所は、初回相談を無料または少額で受け付けています。

この段階では、以下のことを伝えましょう。

  • 建てたい家のイメージ(間取り、広さ、階数など)
  • 土地の条件(広さ、形状、地盤など)
  • 特別な要望(大空間、吹き抜け、耐震性能など)
  • 予算感
  • スケジュール

構造設計士からは、実現可能性や概算費用、設計の進め方などの説明があります。この段階で「この人に任せられそう」と感じたら、次のステップに進みます。

ステップ2:基本設計(1〜2ヶ月)

意匠設計士が描いた間取りをもとに、構造設計士が基本的な構造計画を立てます。

  • どこに柱や壁を配置するか
  • どんな基礎にするか
  • 使用する構造材料は何か
  • 概算の構造計算

この段階で、間取りと構造の調整が行われます。「この壁は抜ける」「ここに梁を入れれば大空間ができる」といった提案を受けながら、最適なプランを固めていきます。

ステップ3:実施設計・構造計算(1〜2ヶ月)

基本設計が固まったら、詳細な構造計算と実施設計図面の作成に入ります。

  • 構造計算書の作成
  • 構造図面の作成(伏図、軸組図、基礎伏図など)
  • 使用部材の詳細決定

この段階で、建築確認申請に必要な構造計算書と図面が完成します。耐震等級などの性能評価もこのタイミングで確定します。

ステップ4:確認申請・審査対応(1ヶ月程度)

構造設計士が作成した図面と計算書をもとに、建築確認申請を行います。審査機関から質問や指摘があった場合、構造設計士が対応します。

ステップ5:工事監理(工事期間中)

工事が始まったら、構造設計士が定期的に現場をチェックします。設計図どおりに施工されているか、構造上重要な部分に間違いがないかを確認するのが工事監理です。

すべての構造設計士が工事監理まで請け負うわけではないので、契約時に確認しておきましょう。工事監理を依頼する場合、別途費用がかかることが一般的です。

構造設計料の相場

気になる費用面について、もう少し詳しく見ていきましょう。

構造設計料は、建物の規模、構造種別、複雑さによって大きく変わります。

木造住宅の場合

  • 延床面積100㎡未満:15万円〜25万円
  • 延床面積100〜150㎡:20万円〜35万円
  • 延床面積150㎡以上:30万円〜50万円

耐震等級3を取得する場合や、複雑な形状の場合は、これより高くなることもあります。

鉄骨造・RC造の場合

木造よりも計算が複雑になるため、費用も高めです。

  • 延床面積150㎡未満:30万円〜50万円
  • 延床面積150㎡以上:50万円〜100万円

3階建て以上や、店舗併用住宅などの場合は、さらに費用がかかることもあります。

工事監理費用

工事監理を依頼する場合、設計料とは別に費用がかかります。相場は設計料の30〜50%程度、または工事期間中の訪問回数に応じて10万円〜30万円程度です。

費用を抑えるには

構造設計料を抑えたい場合、以下の方法があります。

  • シンプルな形状にする(複雑な形は計算量が増える)
  • 標準的な構造計画にする
  • 工事監理は別の方法で行う

ただし、費用だけで構造設計士を選ぶのは危険です。安全性に関わる部分なので、信頼できる技術者を選ぶことを最優先にしましょう。

よくある質問

Q1:ハウスメーカーで建てる場合も構造設計士に相談できる?

基本的には難しいです。ハウスメーカーは自社または提携している構造設計事務所を使うのが一般的で、施主が個別に構造設計士を指定することはできないケースがほとんどです。

ただし、「構造設計士と直接話したい」「構造計算書を見せてほしい」といった要望は伝えられます。対応してくれるかはハウスメーカー次第ですが、真摯に対応してくれるかどうかで、会社の姿勢も見えてきます。

Q2:工務店で建てる場合は?

工務店の場合、構造設計士を選べることもあります。「知り合いの構造設計士に依頼したい」と伝えれば、対応してくれる工務店もあるでしょう。

ただし、工務店が慣れていない構造設計士だと、図面のやりとりや現場での調整がスムーズにいかないこともあるので、事前によく相談することが大切です。

Q3:構造設計士に相談しないとどんなリスクがある?

構造設計士に相談しなくても、法律上問題のある家が建つわけではありません。建築確認申請が通っている以上、最低限の安全性は確保されています。

ただし、「もっと大きな窓が取れたのに」「この柱は本当は不要だったのに」といった「最適化されていない設計」になる可能性はあります。また、構造に関する詳しい説明を受けられないため、「なぜこの家が安全なのか」が分からないまま住むことになります。

Q4:すでに間取りが決まっていても相談できる?

可能です。ただし、間取りが構造的に無理がある場合、大幅な変更が必要になることもあります。できれば基本設計の早い段階で相談するのが理想的です。

Q5:構造設計士との打ち合わせは何回くらい必要?

プロジェクトの規模や複雑さによりますが、3〜5回程度が一般的です。初回相談、基本設計の確認、実施設計の確認、工事前の最終確認といった流れです。

最近はオンラインでの打ち合わせも増えているので、遠方の構造設計士でも依頼しやすくなっています。

まとめ:構造設計士との家づくりは「選択肢」の一つ

構造設計士に直接相談することは、すべての人に必要なわけではありません。ハウスメーカーや工務店に任せて満足のいく家が建つケースも多くあります。

ただし、こんな方には構造設計士への直接相談をおすすめします。

  • デザインと構造を高いレベルで両立したい
  • 特殊な間取りや空間を実現したい
  • 構造の安全性について納得できる説明がほしい
  • 土地条件が厳しく、専門的な判断が必要
  • 建築家と家づくりをする予定がある

構造設計士は、建物の安全を守る「縁の下の力持ち」です。その専門知識を直接活用することで、より安全で、より理想に近い家づくりができる可能性が広がります。

家は一生に一度の大きな買い物。後悔しないためにも、構造設計士という選択肢があることを知っておいて損はありません。気になる方は、まず一度、構造設計士に相談してみてはいかがでしょうか。きっと新しい視点が得られるはずです。

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