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建築基準法とは?構造に関する規定をわかりやすく解説|初心者向け完全ガイド

家を建てようと思ったら、「建築基準法に適合しているか確認が必要です」と言われた。でも、建築基準法って何?どんな法律なの?

建築基準法は、建物の安全を守るために定められた法律です。構造、防火、衛生など、建物に関するさまざまな最低基準が決められています。

今回は、建築基準法とは何か、特に構造に関する規定について、できるだけわかりやすく解説していきます。

建築基準法とは?

建築基準法は、1950年(昭和25年)に制定された、建物の最低基準を定めた法律です。

建築基準法の目的

法律の第1条に、こう書かれています。

「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする」

簡単に言うと、建物の最低限の安全基準を決めて、人々の命や財産を守るための法律です。

なぜ建築基準法が必要なのか

もし建築基準法がなかったら、どうなるでしょうか?

  • 地震で簡単に倒れる建物ができてしまう
  • 火事が広がりやすい建物が建つ
  • 日当たりや風通しの悪い建物が密集する
  • 隣の建物との距離が近すぎてトラブルが起きる

こうした問題を防ぐために、建築基準法で最低限のルールを決めているんです。

「最低基準」という考え方

建築基準法は、あくまで「最低基準」です。これを満たせば法律的にはOKですが、より安全で快適な建物を目指すことは自由です。

例えば、法律では耐震等級1(最低基準)でいいですが、耐震等級3(1.5倍の強度)にすることもできます。

建築基準法の構成

建築基準法は、本体の法律と、細かいルールを定めた「施行令」「施行規則」で構成されています。

建築基準法(本法)

大枠のルールが書かれています。全107条あります。

建築基準法施行令

法律の細かい基準が書かれています。構造計算の方法や、材料の強度などの技術的な基準が詳しく規定されています。

建築基準法施行規則

手続きや様式など、実務的なルールが書かれています。確認申請の書類の様式なども、ここで定められています。

告示

さらに細かい技術基準が、国土交通省の「告示」として出されています。構造計算で使う係数など、専門的な数値が定められています。

建築基準法の適用範囲

建築基準法は、基本的にすべての建築物に適用されます。

建築物の定義

建築基準法では、建築物を次のように定義しています。
「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの」
つまり、住宅、ビル、倉庫、車庫など、ほとんどの建物が対象です。

適用除外される建物

以下のような建物は、一部または全部が適用除外されます。

  • 文化財指定建築物: 重要文化財などの歴史的建造物
  • 仮設建築物: 災害時の仮設住宅など(一定期間のみ)
  • 一定規模以下の小屋: 10㎡以下の物置など(ただし防火地域等では適用される)

でも、基本的にはほとんどの建物が建築基準法の対象になると考えてください。

構造に関する規定の全体像

建築基準法の中でも、特に重要なのが構造に関する規定です。建物が倒壊しないための基準が、詳しく定められています。

構造規定の目的

建物の構造規定は、主に以下を目的としています。

  1. 地震で建物が倒壊しないこと
  2. 風や雪の重さに耐えられること
  3. 長期間、安全に使えること

構造規定の種類

構造に関する規定は、大きく2つに分かれます。

単体規定(第20条〜第40条): 個々の建物が守るべき基準
集団規定(第41条以降): 都市計画や周辺環境に関する基準(容積率、高さ制限など)

今回は、構造に関係する単体規定を中心に解説します。

構造耐力に関する基本規定(第20条)

建築基準法第20条が、構造耐力の基本を定めています。

第20条の内容

「建築物は、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造でなければならない」

簡単に言うと、建物は、あらゆる力に対して安全でなければならないということです。

構造計算または仕様規定

建物の安全性を確保する方法は、大きく2つあります。

構造計算: 数値計算で安全性を証明する方法
仕様規定: 決められた仕様(壁の量、柱の太さなど)を守る方法

建物の規模や構造によって、どちらを使うかが決まっています。

荷重及び外力(第20条、施行令第82条〜)

建物にかかる力(荷重・外力)について、細かく規定されています。

固定荷重

建物自体の重さです。構造部材、仕上げ材、設備などの重さを合計します。

積載荷重

人や家具など、建物の用途によって決められた荷重です。

  • 住宅の居室: 180kg/㎡
  • 事務所: 300kg/㎡
  • 百貨店の売り場: 500kg/㎡

積雪荷重

その地域の積雪量に応じて設定されます。積雪の多い地域では、大きな荷重を見込む必要があります。

風圧力

建物の高さ、形状、地域によって計算されます。台風の多い地域や、高層建築では特に重要です。

地震力

建物の重さ、地盤の状況、建物の高さなどから計算されます。日本では最も重要な外力です。

構造計算の方法(施行令第81条〜)

建物の安全性を確認するための構造計算の方法が定められています。

ルート1・ルート2・ルート3

建物の規模や構造によって、3つの計算ルートがあります。

ルート1(許容応力度計算のみ):

  • 小規模な建物
  • 最も簡易な計算方法

ルート2(許容応力度計算+剛性率・偏心率のチェック):

  • 中規模な建物
  • バランスの確認が追加される

ルート3(保有水平耐力計算):

  • 大規模な建物、複雑な構造
  • 最も詳細な計算が必要

時刻歴応答解析

超高層建築や免震建築では、実際の地震波を使った高度な解析が必要になります。

耐震基準の変遷

建築基準法の耐震基準は、大きな地震が起きるたびに見直されてきました。

旧耐震基準(〜1981年5月)

震度5程度の地震で倒壊しないことが基準でした。

しかし、1978年の宮城県沖地震で多くの建物が被害を受け、基準が不十分であることが明らかになりました。

新耐震基準(1981年6月〜)

中規模の地震(震度5強程度)では損傷しない
大規模の地震(震度6強〜7)では倒壊しない
という、2段階の基準になりました。

阪神・淡路大震災では、新耐震基準で建てられた建物の被害が少なかったことから、基準の有効性が証明されました。

2000年改正(木造の規定強化)

阪神・淡路大震災を受けて、木造住宅の規定が大幅に強化されました。

  • 地盤調査の義務化
  • 接合部の金物指定
  • 耐力壁の配置バランス規定

これにより、木造住宅の耐震性が大きく向上しました。

現在の基準

現在の基準は、2000年改正の基準がベースになっています。東日本大震災や熊本地震を経験しても、基本的な基準は変わっていません(細かい見直しはありますが)。

これは、現行基準が十分に有効であることを示しています。

木造建築物の構造規定(第40条、第41条)

木造建築物には、特有の規定があります。

壁量規定

必要な耐力壁の量が、床面積と建物の規模に応じて決められています。
「壁量計算」という簡易な方法で、必要な壁の量を確認します。

壁の配置バランス

耐力壁が偏っていると、地震時に建物がねじれてしまいます。そのため、バランスよく配置する必要があります。
「四分割法」や「偏心率計算」で確認します。

接合部の規定

柱と梁、土台と柱などの接合部には、適切な金物を使う必要があります。
接合部の金物は、壁の量や建物の規模によって決められています。

基礎の規定

木造建築物の基礎は、以下のいずれかにする必要があります。

  • 布基礎: 連続した鉄筋コンクリートの基礎
  • べた基礎: 床下全面が鉄筋コンクリート
  • 杭基礎: 地盤が弱い場合

地盤調査の結果に応じて、適切な基礎を選びます。

構造計算の義務(第20条)

建物の規模や構造によって、構造計算の義務が変わります。

構造計算が必須の建物

以下の建物は、必ず構造計算が必要です。

  • 木造:3階建て以上、または延べ面積500㎡超、または軒高9m超または高さ13m超
  • 鉄骨造:2階建て以上、または延べ面積200㎡超
  • RC造・SRC造:すべて

4号特例(構造計算を省略できる建物)

以下の建物は、構造計算書の提出が省略できます。

  • 木造2階建て以下
  • 延べ面積500㎡以下
  • 軒高9m以下かつ高さ13m以下

ただし、構造計算をしなくていいわけではありません。壁量計算などの簡易な確認は必要です。また、4号特例は段階的に縮小される方向で法改正が進んでいます。

構造材料の規定(第37条)

建物に使う材料についても、規定があります。

指定建築材料

構造上重要な部分に使う材料は、「指定建築材料」として品質基準が定められています。

  • コンクリート
  • 鉄鋼
  • 木材
  • ガラス
  • アルミニウム合金

など

JIS規格・JAS規格

多くの材料は、JIS(日本産業規格)やJAS(日本農林規格)の基準を満たす必要があります。

大臣認定材料

新しい材料や工法は、国土交通大臣の認定を受ければ使用できます。

確認申請と検査制度

建築基準法を守っているか、行政がチェックする仕組みがあります。

確認申請

建物を建てる前に、設計図や構造計算書などを提出して、建築基準法に適合しているか確認を受けます。
これを「確認申請」と呼びます。

提出先: 特定行政庁(市区町村)または指定確認検査機関

必要書類:

  • 建築確認申請書
  • 設計図書(平面図、立面図、断面図など)
  • 構造計算書(必要な場合)
  • その他必要書類

構造計算適合性判定

一定規模以上の建物は、構造計算が適切かどうか、第三者機関のチェックを受けます。

対象建物:

  • 木造3階建て以上で延べ面積500㎡超
  • 木造以外で高さ13m超または軒高9m超
  • その他、一定規模以上の建物

中間検査・完了検査

中間検査: 工事の途中で、基礎や構造部分をチェック
完了検査: 工事が完了したら、建物全体をチェック
検査に合格しないと、検査済証が発行されず、建物を使用できません。

既存不適格建築物とは

法律が改正されると、昔の基準で建てられた建物が、現在の基準を満たさないことがあります。

既存不適格の定義

建築当時は合法だったが、その後の法改正で現行法に適合しなくなった建物を「既存不適格建築物」と呼びます。

既存不適格は違法ではない

既存不適格建築物は、違法ではありません。建築当時の法律を守っているので、そのまま使い続けることができます。

増改築時の対応

ただし、増改築や大規模修繕をする場合は、現行法に適合させる必要があります。

違反建築物とどうなるか

建築基準法に違反すると、どうなるのでしょうか?

是正命令

違反が発覚すると、特定行政庁から「是正命令」が出されます。
「〇月〇日までに、違反部分を是正しなさい」という命令です。

罰則

是正命令に従わない場合や、悪質な違反には、罰則があります。

3年以下の懲役または300万円以下の罰金:

  • 構造計算書の偽装
  • 確認申請なしで建築

1年以下の懲役または100万円以下の罰金:

  • 確認申請の虚偽記載
  • 完了検査を受けない

建築士の免許取り消し: 建築士が違反に関与した場合

使用禁止・除却命令

危険な建物には、使用禁止や取り壊しの命令が出されることもあります。

建築基準法の最近の改正

建築基準法は、時代に合わせて改正されています。

2019年改正

木造建築の規制緩和: 耐火性能を満たせば、木造でも高層建築が可能に
既存建築物の活用促進: 用途変更の手続きを緩和

2020年改正

4号特例の段階的縮小: 構造計算の義務化を拡大
建築確認手続きの合理化: 申請のオンライン化を推進

これからの改正

今後も、以下のような方向で改正が進むと予想されます。

  • 省エネ基準の義務化
  • 既存ストックの活用促進
  • デジタル技術の活用
  • 災害対策の強化

建築基準法を守るために

建築基準法は複雑ですが、守るべきポイントは明確です。

1. 信頼できる専門家に依頼する

建築士や工務店など、信頼できるプロに設計・施工を依頼しましょう。

2. 確認申請を確実に行う

どんな小さな建物でも、確認申請が必要かどうか確認してください。

3. 完了検査を必ず受ける

工事が終わったら、完了検査を受けて検査済証をもらいましょう。

4. 増改築時は事前に相談

リフォームや増築をする前に、確認申請が必要か専門家に相談してください。

5. 定期的なメンテナンス

建物を長く安全に使うために、定期的な点検とメンテナンスを行いましょう。

よくある質問

Q1. 建築基準法を守らないとどうなる?

最悪の場合、罰金や懲役、建物の取り壊しを命じられることもあります。また、違反建築物は売却が難しく、住宅ローンも組めません。

Q2. 古い家は建築基準法に適合していない?

建築当時の法律を守っていれば問題ありません(既存不適格)。ただし、増改築時には現行法に適合させる必要があります。

Q3. DIYでも建築基準法は守る必要がある?

はい、必要です。10㎡を超える建物は確認申請が必要ですし、構造的な安全性も確保しなければなりません。

Q4. 建築基準法は都道府県によって違う?

基本的なルールは全国共通です。ただし、地域の実情に応じて、条例で上乗せ規制がある場合があります。

Q5. 確認申請にはどれくらい時間がかかる?

通常の住宅で2週間〜1ヶ月程度。構造計算適合性判定が必要な場合は、さらに2週間〜1ヶ月かかります。

Q6. 建築基準法は誰が作っている?

国会で法律が制定され、国土交通省が施行令や告示を定めています。改正も国会で審議されます。

まとめ:建築基準法は建物の安全を守る基本ルール

建築基準法は、建物の安全を守るための最低基準を定めた法律です。特に構造に関する規定は、地震や風などの外力に対して、建物が倒壊しないための重要なルールです。

建築基準法のポイント
  1. すべての建物に適用される最低基準
  2. 耐震基準は過去の地震を教訓に改正されてきた
  3. 構造計算または仕様規定で安全性を確保
  4. 確認申請と検査で法適合をチェック
  5. 違反すると罰則や是正命令がある

家を建てる人も、リフォームする人も、建築基準法の基本を知っておくことは大切です。信頼できる専門家と相談しながら、安全で快適な建物をつくってください。

建築基準法を守ることは、あなた自身と家族の安全を守ることにつながります。

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