「耐震等級3だから安心です」「国が認めた高性能住宅です」「業界トップクラスの断熱性能」——住宅展示場やカタログで、こんな言葉を何度も聞いたことがあるのではないでしょうか。
でも、その数字や認定マーク、本当に額面通り受け取っていいのでしょうか?
私は15年以上、構造設計の現場に携わってきました。その中で、「え、これで耐震等級3が取れるの?」と驚いたこともあれば、「この数値、実際の性能と違うんじゃ…」とモヤモヤしたことも正直あります。
もちろん、ほとんどのハウスメーカーや工務店は誠実に家づくりをしています。でも、「カタログの数字だけを信じて契約してしまう」のは、やはり危険です。
この記事では、構造設計のプロだからこそ知っている「住宅性能の裏側」を、包み隠さずお伝えします。家づくりで後悔したくない方、営業トークに流されず冷静に判断したい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
住宅性能表示制度とは?まず基本を理解しよう
まず、「住宅性能」について語る上で欠かせない「住宅性能表示制度」を正しく理解しましょう。
住宅性能表示制度の仕組み
住宅性能表示制度は、国土交通大臣が指定する第三者機関が、住宅の性能を客観的に評価する制度です。評価される項目は全部で10分野。
- 構造の安定(耐震性など)
- 火災時の安全
- 劣化の軽減
- 維持管理・更新への配慮
- 温熱環境・エネルギー消費量
- 空気環境
- 光・視環境
- 音環境
- 高齢者等への配慮
- 防犯
それぞれの項目に等級や数値が付けられ、「見える化」されます。
任意制度だからこその落とし穴
実は、この住宅性能表示制度、取得は任意です。つまり、取得しなくても家は建てられるし、取得するかどうかは建築主や施工会社の判断次第。
そして、ここに最初の「ホント」と「ウソ」が隠れています。
ホント:第三者評価は信頼性が高い
住宅性能評価を取得している家は、設計段階と建築段階の両方で第三者機関のチェックが入ります。これは大きな安心材料。
ウソ(というか誤解):性能表示がなければ性能が低いわけではない
性能表示を取得していない家でも、実際には高性能な家はたくさんあります。特に地域の優良工務店は、「わざわざ高い評価費用を払わなくても、自信を持って建てている」ケースが多いです。
逆に言えば、「性能表示を取得している=絶対に良い家」というわけでもない、ということ。ここからが本題です。
「耐震等級3」の裏側:取得方法で性能は全然違う
一番わかりやすいのが「耐震等級」の話です。
耐震等級とは
耐震等級は1〜3まであり、数字が大きいほど地震に強い建物です。
- 等級1:建築基準法レベル(数百年に一度の地震で倒壊しない)
- 等級2:等級1の1.25倍の強度
- 等級3:等級1の1.5倍の強度(消防署や警察署と同レベル)
最近は「耐震等級3」を謳う住宅が増えてきました。これ自体は良いことです。でも、同じ「等級3」でも、実は中身が全然違うことがあるんです。
耐震等級3取得の2つの方法
耐震等級3を取得する方法は、大きく分けて2つあります。
① 住宅性能表示制度による評価(本物の等級3)
第三者機関が設計図書をチェックし、実際の建築現場も検査します。厳格な基準をクリアする必要があり、信頼性が高いです。
② 品確法の仕様規定による評価(簡易的な等級3)
いわゆる「仕様規定」と呼ばれる方法。壁量計算という簡易的な計算で等級を判定します。第三者検査は入りません。
何が違うのか?
計算の精度が違う
仕様規定は「このくらいの壁があればOK」という簡易的な判断。一方、住宅性能表示制度では「許容応力度計算」という詳細な構造計算を行います。
チェック項目が違う
仕様規定では見逃されがちな「接合部の強度」や「基礎の配筋」なども、住宅性能表示では細かくチェックされます。
コストが違う
当然、詳細な計算と第三者検査が入る分、住宅性能表示の方がコストは高くなります(評価費用は30〜50万円程度)。
営業トークの見分け方
要注意な営業トーク
「当社の家はすべて耐震等級3です!」
→ どの方法で取得しているか確認しましょう。
「耐震等級3相当の性能です」
→ 「相当」という言葉は要注意。第三者評価を受けていない可能性が高いです。
信頼できる説明
「住宅性能評価で耐震等級3を取得しています」
「許容応力度計算による構造計算を行っています」
→ 具体的な方法を明示してくれる会社は信頼できます。
「高断熱・高気密」の数字は本当か?
次に、断熱性能について見ていきましょう。
UA値・C値の意味
UA値(外皮平均熱貫流率)
家全体からどのくらい熱が逃げるかを示す数値。小さいほど高断熱。
C値(相当隙間面積)
家全体にどのくらい隙間があるかを示す数値。小さいほど気密性が高い。
最近は「UA値0.4」「C値0.5」といった数字を前面に出すハウスメーカーが増えています。
カタログ値と実測値のギャップ
ここで大きな問題があります。UA値はカタログ値、C値は現場で測定しないと確定しないという点です。
UA値の落とし穴
UA値は設計段階で計算できます。つまり、「理論上はこの性能です」という数字。実際の施工品質が悪ければ、性能は落ちます。
特に注意すべきは、「標準仕様」と「実際のプラン」の違い。カタログに載っているUA値は、最も条件の良いモデルプランで計算されていることが多いです。
C値の現実
C値は実際に「気密測定」を行わないと確定しません。でも、気密測定は義務ではないため、測定しない会社も多いんです。
「C値1.0以下を目指しています」という表現も要注意。「目指している」だけで、保証はしていません。
本当に信頼できる断熱性能の確認方法
全棟で気密測定を実施しているか
信頼できる会社は、全棟で気密測定を行い、結果を施主に報告します。
実際のプランでUA値を計算してもらう
カタログの数字ではなく、「あなたの家のUA値はいくつか」を計算してもらいましょう。
施工現場を見せてもらう
断熱材の施工状況を実際に見ることで、施工品質がわかります。隙間だらけの断熱施工では、どんなに良い材料を使っても意味がありません。
「長期優良住宅」は本当に優良なのか?
長期優良住宅の認定を受けている家も増えています。でも、これも額面通り受け取っていいのでしょうか?
長期優良住宅の認定基準
長期優良住宅として認定されるには、以下の基準をクリアする必要があります。
- 劣化対策(数世代にわたり使用できる)
- 耐震性(耐震等級2以上、または免震建築物)
- 維持管理・更新の容易性
- 可変性(間取り変更のしやすさ)
- バリアフリー性
- 省エネルギー性
- 居住環境
- 住戸面積(一戸建ては75㎡以上)
- 維持保全計画
認定を受けるメリット
税制優遇
住宅ローン減税の控除額が大きい、不動産取得税の軽減、固定資産税の優遇など、税制面でのメリットは大きいです。
資産価値
長期優良住宅は、将来の売却時に評価されやすい傾向があります。
でも、注意すべきこと
最低基準をクリアしただけ
長期優良住宅の基準は、実は「最低限こうあるべき」というレベル。認定を受けたからといって、「超高性能住宅」というわけではありません。
例えば、耐震性は等級2以上でOK。等級3じゃなくても認定されます。
維持保全計画が形骸化することも
長期優良住宅の認定には「維持保全計画」の提出が必要ですが、実際に計画通りメンテナンスしているかのチェックはゆるいです。
認定取得がゴールになってしまう
「長期優良住宅だから安心」と思い込んで、実際の施工品質や住み心地を軽視してしまうケースも。
本当に見るべきポイント
長期優良住宅の認定より、以下を確認しましょう。
- 実際の耐震等級(等級3を推奨)
- 断熱性能の実測値
- 使用する材料の質
- 施工会社の実績と評判
- アフターメンテナンスの体制
認定はあくまで「目安」。中身をしっかり見ることが大切です。
「標準仕様」に隠された罠
ハウスメーカーのカタログやWebサイトには、魅力的な標準仕様が並んでいます。でも、ここにも注意が必要です。
標準仕様の実態
標準仕様≠あなたの家の仕様
多くの場合、カタログに載っている「標準仕様」は、最も条件の良いモデルプランでの話。実際にあなたが建てる家では、敷地条件や間取りによって仕様が変わることがあります。
よくあるパターン
「標準仕様では外壁は窯業サイディング」と書いてあっても、実際には「窯業サイディングの中でも最も安価なグレード」だったり。
「標準で複層ガラス」と謳っていても、「Low-E複層ガラスは別途オプション」だったり。
グレードの落とし穴
「グレードアップ」の基準が曖昧
「当社は標準仕様でもハイグレードです」という営業トークも要注意。何と比較してハイグレードなのか、具体的なスペックを確認しましょう。
実例:断熱材の罠
「標準で高性能グラスウール使用」と言われても、その厚みは?密度は?施工方法は?これらによって性能は大きく変わります。
見積もりで確認すべきこと
具体的な商品名・品番を確認
「システムキッチン」ではなく、「〇〇社の△△シリーズ」まで明記されているか。
仕様書を詳細にチェック
- 基礎の仕様(ベタ基礎か布基礎か、配筋の太さは)
- 構造材の樹種とグレード(集成材か無垢材か)
- 断熱材の種類・厚み・施工方法
- 窓の性能(ガラスの種類、サッシの材質)
- 換気システムの種類(第一種か第三種か)
標準仕様とオプションの境界線を明確に
「これは標準仕様に含まれますか?」と、一つひとつ確認しましょう。
「実績豊富」「施工実績〇〇棟」は信用できる?
「創業50年」「年間施工実績1000棟」といった数字も、住宅会社選びでよく目にします。
実績の数字が意味すること
棟数が多い=良い会社?
必ずしもそうとは限りません。大手ハウスメーカーは確かに施工棟数が多いですが、実際に施工するのは下請けの工務店です。
下請け構造の実態
ハウスメーカー→一次下請け→二次下請け、と何層にも分かれている場合、現場の職人に支払われる金額は少なくなり、結果的に施工品質が落ちることも。
本当に見るべき実績
地域での評判
施工棟数より、「その地域で長く続いている」「近所の評判が良い」という方が重要です。
担当する職人の技術
大手でも地元工務店でも、最終的には「誰が施工するか」が全て。できれば、実際に施工する大工さんや職人さんに会わせてもらいましょう。
アフターフォローの実績
「建てたら終わり」ではなく、10年後、20年後もしっかり対応してくれるか。過去の施主に話を聞けるとベストです。
危険な営業トーク
「当社は業界トップクラスです」
→ 何をもってトップクラスなのか、具体的な根拠を聞きましょう。
「〇〇賞を受賞しました」
→ デザイン賞は多いですが、構造や性能の評価かどうか確認を。
「著名人も当社で建てています」
→ 有名人が建てた=性能が高い、ではありません。
構造計算の「やっている」と「やっていない」
ここからは、もう少し専門的な話に踏み込みます。
木造2階建ての「4号特例」
実は、木造2階建て以下の建物は、建築基準法上「構造計算が不要」です(4号特例)。
つまり、法律上は構造計算をしなくても家が建てられるんです。
構造計算の有無で何が変わるか
構造計算なし(壁量計算のみ) 簡易的な計算で「このくらいの壁があればOK」と判断。接合部の強度や基礎の詳細な検証はしません。
構造計算あり(許容応力度計算) 柱、梁、基礎、接合部など、すべての部材の強度を詳細に計算。より正確に建物の安全性を確認できます。
構造計算をしない理由
コスト削減
構造計算を行うと、設計料が上がります(10〜30万円程度)。また、計算の結果、補強が必要になれば施工費も増えます。
時間がかかる
詳細な計算には時間がかかります。ローコスト住宅や短納期を売りにしている会社は、構造計算を省略することが多いです。
あなたの家は構造計算している?
確認方法
「構造計算書はありますか?」と直接聞きましょう。
- 壁量計算書しかない → 簡易計算のみ
- 許容応力度計算書がある → 詳細な構造計算あり
構造計算を推奨するケース
- 大空間や吹き抜けがある
- 間取りが複雑
- 狭小地や変形地
- 地盤が弱い
- 長期的に安心したい
これらに当てはまる場合は、多少コストがかかっても構造計算を依頼することをおすすめします。
地盤調査・地盤改良の「適切」と「過剰」
見落とされがちですが、とても重要なのが地盤です。
地盤調査は義務、でも…
地盤調査自体は義務なので、どの会社でも行います。でも、調査方法や改良の判断基準は会社によってバラバラです。
よくある地盤調査の方法
スウェーデン式サウンディング試験(SWS試験)
最も一般的で安価(5〜10万円程度)。敷地の5箇所程度を調査します。
ボーリング調査
より詳細だが高額(30〜50万円)。大規模建築や軟弱地盤で行います。
地盤改良の「過剰」問題
実は、地盤改良が必要かどうかの判断は、かなりグレーゾーンがあるんです。
過剰改良が起こる理由
地盤改良を行う会社が調査もやっている場合、「念のため改良しましょう」となりがち。改良工事は数十万〜200万円の売上になります。
逆に、手抜きも
コスト重視の会社は、本来必要な地盤改良を省略することも。
適切な地盤改良の見極め方
セカンドオピニオンを取る
地盤調査の結果と改良提案に疑問があれば、別の会社に見てもらいましょう。
地盤保証の内容を確認
多くの住宅会社は地盤保証に加入しています。保証内容と保証会社をチェック。
近隣の状況を確認
近所の家が地盤改良をしているか、周辺の地盤データを確認するのも有効です。
保証・アフターサービスの「書いてあること」と「実際」
最後に、保証とアフターサービスについて。
法律で決まっている保証
10年の瑕疵担保責任
構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分は、10年間の保証が法律で義務付けられています。
これはすべての新築住宅に適用されるので、「10年保証」を特別なセールスポイントのように語る営業は要注意。
延長保証の実態
「最長60年保証」「永年保証」といった謳い文句もよく見ます。
条件をしっかり確認
- 有料の定期点検を受けることが条件
- 指定の業者でメンテナンス工事を行うことが条件
- 実質的に10年ごとに更新料がかかる
こういった条件がついていることが多いです。
保証の主体は誰か
会社が倒産したらどうなる?
自社保証だけの場合、会社が倒産すれば保証も消えます。
第三者保証があるか
住宅瑕疵担保責任保険や、第三者機関による保証がついていれば、施工会社が倒産しても保証は続きます。
アフターサービスの質
定期点検の実施率
「1年、2年、5年、10年の定期点検」と謳っていても、実際に来てくれるかは別問題。過去の施主に確認できると良いです。
緊急時の対応
「24時間対応」と言いながら、実際には「営業時間内にお電話ください」となることも。
有償・無償の境界
どこまでが無償メンテナンスで、どこからが有償か、明確にしておきましょう。
本当に信頼できる住宅会社の見分け方
ここまで読んで、「じゃあ、どうすれば信頼できる会社を選べるの?」と思われたかもしれません。
信頼できる会社の特徴
① 数字の根拠を明確に説明できる
「耐震等級3です」だけでなく、「住宅性能評価で取得しています」「許容応力度計算を行っています」と具体的に説明できる。
② 悪い部分も正直に話す
「ウチの家は完璧です」という会社より、「この部分はコストの関係で標準仕様です」「この間取りだと構造的にこういう制約があります」と正直に話す会社の方が信頼できます。
③ 施工現場を見せてくれる
「構造見学会」や「施工途中の現場見学」を積極的に行っている会社は、施工品質に自信がある証拠。
④ OB施主の声を聞ける
実際に建てた人の生の声を聞ける環境を提供してくれるか。都合の良い意見だけでなく、リアルな住み心地を教えてくれるOB施主がいるか。
⑤ 質問に対して誠実に答える
わからないことは「確認します」と正直に言い、後日きちんと回答してくれる。その場しのぎの回答をしない。
逆に、避けるべき会社
即決を迫る
「今日契約すれば特別値引き」「今月中に決めないとこの価格では無理」という営業は要注意。
他社の悪口を言う
「〇〇社は構造が弱い」など、具体的根拠なく他社を批判する会社は信頼できません。
曖昧な表現が多い
「業界トップクラス」「高性能」「グレードが高い」など、具体性のない言葉ばかり使う。
契約後の態度が変わる
契約前は熱心だったのに、契約後は連絡が遅くなる、対応が雑になる。
消費者として持つべき視点
最後に、家を建てる側として、どんな心構えで臨むべきかをお伝えします。
「性善説」だけでは危険
ほとんどの住宅会社は誠実です。でも、「プロが言うんだから間違いない」と盲信するのは危険。
疑う目と信じる心のバランス
すべてを疑っていては家は建ちません。でも、重要な部分は「本当にそうか?」と確認する姿勢が大切です。
勉強は必要、でも専門家になる必要はない
構造計算の細かい内容まで理解する必要はありません。でも、「何を確認すべきか」「どんな質問をすべきか」は知っておくべきです。
複数社で比較する
一社だけで決めず、必ず複数社を比較しましょう。同じ性能表示でも、説明の仕方や誠実さは会社によって全然違います。
第三者の専門家に相談する
住宅会社とは独立した、第三者の建築士やホームインスペクターに相談するのも有効です。有料でも、数十万円の相談料で数百万円の失敗を防げるなら安いものです。
まとめ:数字より、人と姿勢を見よう
ここまで、住宅性能の「ホント」と「ウソ」をお伝えしてきました。
- 耐震等級3にもレベルの差がある
- カタログの数値と実際は違うことがある
- 長期優良住宅でも最低基準
- 標準仕様の中身を確認する
- 実績の数字より、実際の施工品質
- 構造計算の有無を確認する
- 地盤改良は適切かチェック
- 保証内容の条件を読み解く
たくさんの注意点を挙げましたが、最後に一つだけ。
結局、大切なのは「数字」より「人」です。
どんなに性能が良くても、どんなに保証が充実していても、その会社と担当者が信頼できるかが一番重要。
- 質問に誠実に答えてくれるか
- わからないことを正直に認められるか
- 都合の悪いことも隠さず話してくれるか
- 建てた後も長く付き合える関係性か
こういった「人としての信頼」が、カタログの数字よりもずっと大切です。
家づくりは、人生で一番大きな買い物。後悔しないために、性能の数字だけに惑わされず、本質を見極める目を持ってください。
この記事が、あなたの家づくりの一助となれば幸いです。