「高気密高断熱にすると壁が厚くなるって聞いたけど、構造は大丈夫?」「性能を上げると間取りの自由度が下がるんじゃないの?」住宅の高性能化を考えるとき、こんな不安を感じる方は多いのではないでしょうか。確かに、高気密高断熱住宅は一般住宅とは構造面でいくつかの違いが生まれます。しかし、それは決してデメリットばかりではありません。むしろ正しく理解すれば、快適性と構造の両立が可能になるのです。この記事では、高気密高断熱住宅にすると構造がどう変わるのか、どんな点に注意すべきかを、建築のプロ目線でわかりやすく解説します。
高気密高断熱にすると「壁が厚くなる」は本当か
高気密高断熱住宅を検討する際、最初に気になるのが「壁の厚み」です。一般的な木造住宅の外壁の厚みは柱を含めて120mm程度ですが、高気密高断熱仕様にすると200〜300mm程度になることも珍しくありません。
この壁厚の増加は、主に断熱材の厚みが増すことによるものです。一般住宅では柱間(105mm)に断熱材を充填する「充填断熱」が主流ですが、高性能住宅では柱の外側にさらに断熱材を追加する「付加断熱」や、構造体の外側全体を断熱材で覆う「外張断熱」が採用されることが多くなります。
新潟県内でも、壁厚220mmの高気密高断熱仕様が実際に採用されており、付加断熱という施工法が取り入れられています。
壁が厚くなることで、室内の有効面積が減るのではと心配される方もいますが、実際には外側に厚みが増すため、内部の居住スペースが大きく減ることはありません。ただし、設計段階から壁厚を考慮した間取り計画が必要になります。
断熱工法によって構造体への影響は変わる
高気密高断熱住宅の断熱工法には大きく分けて「充填断熱」と「外張断熱」の2種類があり、それぞれ構造体への影響が異なります。
充填断熱の場合
柱と柱の間に断熱材を詰める方法で、構造体そのものへの変更は最小限です。ただし、気密性を確保するため、防湿シートや気密テープの施工が非常に重要になります。柱と断熱材との間に少しでも隙間があると、柱の温度が下がることで断熱材との温度差が発生し、壁内結露の原因となります。
外張断熱の場合
構造体の外側に断熱層を作る工法で、充填断熱よりも気密性が高く、構造物が傷みにくいメリットがあります。壁内に断熱材を詰める必要がないため、内部結露が起こりにくくなります。
外張断熱を採用する場合、外壁材を固定するための下地構造が従来よりも複雑になります。断熱材の外側に通気層を設けるため、外壁を支える構造にも工夫が必要です。また、外壁が厚くなる分、軒の出や庇の設計も見直す必要があります。
高気密高断熱仕様が耐震性に与える影響
「壁が厚くなると家が重くなって、地震に弱くなるのでは?」こんな不安を持つ方もいるでしょう。
結論から言えば、高気密高断熱仕様にしても、建物の耐震性が大きく損なわれることはありません。むしろ、適切な構造設計を行えば、耐震性と高性能を両立できます。
断熱材自体は非常に軽量です。グラスウールやロックウール、発泡系断熱材のいずれも、建物全体の重量に占める割合はわずかです。重量のあるセルロースファイバーやインシュレーションボードには吸音・遮音・防音の効果もあります。
ただし、外張断熱で外壁が厚くなる場合、建物の重心がわずかに高くなることがあります。そのため、構造計算では壁厚を考慮した荷重配分を行い、必要に応じて耐力壁の配置を調整します。
また、気密性が高まることで、構造体が外気の湿気から守られ、長期的には構造材の劣化が抑えられるという利点もあります。適切な防湿・気密施工がされていれば、むしろ構造体の寿命は延びると言えるでしょう。
開口部(窓・ドア)の構造設計はより慎重に
高気密高断熱住宅では、開口部の設計が従来以上に重要になります。
窓や玄関といった開口部から多くの熱が放出されてしまうため、せっかく壁や床、天井が高断熱でも、断熱性能が低いサッシや玄関ドアを使うとそこから熱が失われてしまいます。
高性能な樹脂サッシやトリプルガラスは、一般的なアルミサッシよりも枠が太く、重量も増します。そのため、開口部の構造補強が必要になる場合があります。
特に大きな掃き出し窓や、吹き抜けに面した大開口を設ける場合は、構造設計士と十分に協議しながら、耐力を確保しつつ高性能サッシを取り付ける方法を検討する必要があります。
また、壁が厚くなることで窓の取り付け位置(内寄せ・外寄せ)の選択肢が広がります。内寄せにすれば窓辺にベンチスペースが生まれ、外寄せにすれば軒の出を深くして日射遮蔽に役立てることができます。
間取りの自由度は本当に下がるのか
「高気密高断熱にすると間取りの制約が増える」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは半分正解で、半分誤解です。
確かに、高気密高断熱住宅では以下のような配慮が必要になります。
- 換気計画を考慮した間取り設計
- 空気が循環しやすいオープンな空間構成
- 温度ムラが生じにくい部屋の配置
しかし、これらは「制約」というより「より快適な住まいにするための工夫」です。壁や仕切りが多いと空気が滞留しやすく温度ムラが生じるため、なるべくシンプルな動線と空間設計を意識することが推奨されています。
むしろ、高気密高断熱住宅では家全体が均一な温度に保たれるため、廊下を最小限にした開放的な間取りや、吹き抜けのある大空間も実現しやすくなります。吹き抜けは上下の温度差が大きくなりがちですが、ファンや空調システムを組み合わせることで、空気を効率的に循環させられます。
構造的な制約よりも、むしろ高性能を活かすための間取りの工夫と捉えるべきでしょう。
構造別(木造・鉄骨・RC)で高気密高断熱の実現方法は異なる
高気密高断熱住宅は構造種別によって、その実現方法や注意点が変わってきます。
木造住宅の場合
日本に多い木造住宅は、鉄筋コンクリート造の家よりも隙間が多い傾向にあり、気密性が低くなりがちです。そのため、防湿シートや気密シートなどを活用して、建築時に気密性を高めることが重要です。
木造では充填断熱と外張断熱を組み合わせたハイブリッド工法が人気です。柱間に断熱材を充填し、さらに外側に薄い断熱材を張ることで、高性能と施工性を両立できます。
鉄骨造の場合
鉄骨は熱を伝えやすい素材のため、断熱処理を怠ると鉄骨部分がヒートブリッジ(熱橋)となり、断熱性能が大きく低下します。鉄骨造で高気密高断熱を実現するには、鉄骨を断熱材で完全に覆う「外断熱」が基本となります。
RC造の場合
RC(鉄筋コンクリート)構造の住宅の場合、コンクリートの壁を境にして外壁と内壁を作るため、木造に比べてもともと断熱性は高くなっています。ただし、コンクリート自体は蓄熱性が高いものの断熱性は低いため、内断熱または外断熱で適切に処理する必要があります。
24時間換気システムの設置が構造に与える影響
2003年以降、すべての新築住宅には24時間換気システムの設置が義務付けられています。高気密高断熱住宅ではこの換気システムがより重要な役割を果たします。
換気システムには大きく分けて3種類あります。
第1種換気(給気・排気ともに機械で行う)
給気と排気を機械で制御するため、熱交換器を組み込むことができます。高性能住宅では熱交換率90%の第1種換気が採用されることが多く、換気による熱損失を最小限に抑えられます。
ただし、給気・排気両方のダクト配管が必要になるため、天井裏や床下に配管スペースを確保する必要があります。設計段階から換気ルートを考慮した構造計画が求められます。
第3種換気(排気は機械、給気は自然)
コストを抑えられる一方、熱交換ができません。ただし、気密性が高い住宅のほうが第3種換気は効率よく機能します。気密性が低いと、意図しない隙間から空気が入り込み、計画通りの換気ができません。
換気システムの種類によって、天井高や小屋裏の構造設計も変わってくるため、早い段階で換気方式を決定することが重要です。
内部結露を防ぐための構造上の工夫
高気密高断熱住宅で最も注意すべき構造上のリスクが「内部結露」です。
施工不良によって断熱材に隙間ができてしまうと、そこに内部結露が発生しやすくなります。内部結露は住宅の柱や土台を腐らせ、害虫被害を起こしやすい温床となってしまうため、住宅を長持ちさせるためには十分に気をつけなければなりません。
内部結露を防ぐための構造的な対策には以下のようなものがあります。
1. 防湿層の適切な施工
室内側に防湿シートを隙間なく張り、気密テープで確実に処理します。特に柱と土台の接合部、配線・配管の貫通部は丁寧な処理が必要です。
2. 通気層の確保
壁面や床下へ防湿層・通気層を設置するなど、適切な施工が壁内結露を防ぐために必要です。外壁と断熱材の間に15〜18mm程度の通気層を設けることで、万が一水蒸気が侵入しても排出できる構造にします。
3. 構造材の乾燥
使用する木材の含水率管理も重要です。含水率が高い木材を使用すると、木材自体から水分が放出され、壁内結露のリスクが高まります。
4. 気流止めの設置
床下や小屋裏から壁内に空気が流入しないよう、構造上の気流止めを適切に設置します。
高気密高断熱仕様にすると建築コストはどう変わるか
構造面での変更が伴う高気密高断熱仕様ですが、コスト面への影響も気になるところです。
一般的に、高気密高断熱仕様にすると建築費は坪単価で2〜5万円程度上乗せになると言われています。
具体的には
- 断熱材のグレードアップと量の増加:1〜2万円/坪
- 高性能サッシへの変更:1〜2万円/坪
- 気密施工の手間増加:0.5〜1万円/坪
- 換気システムのグレードアップ:0.5〜1万円/坪
気密性や断熱性を高めるために、気密シートや断熱材を使ったり、窓の遮熱性を高くするために品質の高いガラスを使用したりすることになるため、一般的な住宅よりも建築コストが高くなります。
ただし、これらの初期投資は光熱費削減によって回収できる場合が多いです。また、国や自治体の省エネ住宅補助金を活用できれば、実質的な負担はさらに軽減されます。
構造面での追加コストとしては、外張断熱を採用する場合の外壁下地材、換気ダクトの配管工事、気密測定費用などがあります。
構造設計士との連携が成功のカギ
高気密高断熱住宅を成功させるには、意匠設計だけでなく構造設計との綿密な連携が欠かせません。
通常の住宅では意匠図ができてから構造計算を行うケースも多いですが、高気密高断熱住宅では設計の初期段階から構造設計士を交えた検討が理想的です。
特に以下のようなケースでは構造設計士との早期連携が重要になります。
- 大開口や吹き抜けを設ける場合
- 外張断熱で壁厚が300mm以上になる場合
- 付加断熱で軒の出を深くする場合
- スキップフロアなど複雑な床レベルがある場合
- 第1種換気でダクト配管スペースが必要な場合
高気密高断熱の性能は、施工会社の技術力の高さや豊富な経験によって左右されます。実績豊富な設計事務所や工務店を選ぶことが、構造と性能を両立した住まいを実現する近道です。
実際の施工で気をつけるべき構造上のポイント
設計図面がどれだけ優れていても、施工品質が伴わなければ高気密高断熱住宅は実現できません。構造面で特に注意すべき施工ポイントを紹介します。
気密測定の実施
気密性に関しては専用の機械でなければ数値を計測できません。家を建てる際は、気密性もしっかりと測定してもらいましょう。
理想的には、断熱・気密工事の途中段階と完成時の2回測定を行います。途中段階で問題が見つかれば、壁を閉じる前に修正できるためです。
断熱材の施工精度
充填断熱では、断熱材と構造材の間に隙間ができないよう、丁寧にカットして充填することが重要です。特に筋交いの周辺や配線・配管の周囲は隙間ができやすいため、細心の注意が必要です。
防湿・気密シートの連続性
防湿シートは一枚の連続したシートで室内を包み込むイメージで施工します。継ぎ目は必ず気密テープで処理し、コンセントボックスや配管貫通部も専用部材で確実に気密処理します。
構造材の養生
工事中に構造材が雨に濡れないよう、適切な養生が必要です。特に梅雨時期の施工では、構造材が湿気を含まないよう配慮が求められます。
高気密高断熱と構造の関係まとめ
高気密高断熱住宅にすると、確かに構造面でいくつかの変更や配慮が必要になります。壁は厚くなり、開口部の設計はより慎重になり、換気システムの組み込みも考える必要があります。
しかし、これらは決して「制約」ではなく、より快適で長持ちする住まいを実現するための「進化」と捉えるべきでしょう。適切な構造設計と丁寧な施工が行われれば、耐震性と高性能は十分に両立できます。
重要なのは、高気密高断熱住宅の構造的な特徴を理解した上で、実績のある設計者・施工者を選ぶことです。性能数値だけでなく、構造面での知識と経験を持った専門家と家づくりを進めれば、安全で快適な高性能住宅が実現できます。
家は一生に一度の大きな買い物です。快適性だけでなく、構造の安全性もしっかりと確保した上で、理想の高気密高断熱住宅を手に入れてください。